プラマイの雨

どれほど健やかに恋をしても終わるときには確実になにかが減っていて、新しい恋をしてもその減りを補うことは絶対にできない。だから恋を重ねることは、どんどん減ることである。首筋に大きな磁石を巻きつけているみたいに、じわじわと硬質な靄が目の奥を暗くしていく。その靄は過去と呼ばれている。過去は増えていく。過去は憂鬱なすみれ色の蜜として、雨の中の黒い墓石として、そしてやはり硬質な靄として体を重くしていく。手を伸ばしても届くことはない。届かないというその事実がまた量感をもってそこにある。人生には過去しかない。雨だけが降っている。深夜のコンビニの前に車を停めて、運転席から窓を伝う雨の雫をずっとずっと眺めているようなそんな気分が続いている。この時間すら嘘と呼べる。