プラマイの雨

どれほど健やかに恋をしても終わるときには確実になにかが減っていて、新しい恋をしてもその減りを補うことは絶対にできない。だから恋を重ねることは、どんどん減ることである。首筋に大きな磁石を巻きつけているみたいに、じわじわと硬質な靄が目の奥を暗…

昨今、文体至上主義

千葉雅也『デッドライン』読んだので取り急ぎ。読めない、この小説はたぶんあまり好きじゃないと思ったのだがその苛立ちの中に、なにか“何処へも行けない”という、深夜の海岸に転がった空き缶を見ているような感覚が混入していて、案外読めていたのかもしれ…

彼はやはり

天才だったのですね、というゆわれかたをしてみたいもんよ。いや伏線は張ってきたつもり。要所要所で残してきた爪痕がそろそろ実を結んでもいい頃、なわけはないか。爪痕合戦で勝っても爪痕は爪痕にしかならず、爪だけがボロボロのまんま路傍の石と成り果て…

羽化してさよなら

ひとと酒を飲み交わすのが不得意になっている。酒じたいは好きだし、嫌なひとと付き合いで飲むほど首尾よく社会人できてないけど、なんでしょうね、飲んでる間はさして気にもならないいろんなこと、たとえばここの料理まずくはないしうまいんだけどここまで…

軽薄だからこそ

現実を知っているというような口ぶりの人々の語る現実とは大体がカテゴリ的に決定されているわけで、それは性欲、暴力、金銭欲求承認欲求といったもう歴史上何遍も何遍も人類を破綻させ疲弊させてきた諸々のロジック、はたまた情動であるわけですが、果たし…

荒れ野

社会生活をおくるうえですべきことは山ほどあるというのに、小説を書くことにすべての重きを置くとはどういうことだろう。しゃべりたくない、人と会いたくない、風に吹かれて肌に排気ガスのカスがつくのがイヤ、口から漏れる音が自分の耳にまた入ることの恥…

今はたぶんまだミぐらい

わたしはわたしという人間であることになんの疑問も抱きはしないのだけれど、いやたまにサンゴ礁の奥深く未だ人に知られてない生命体の仲間の一員になったような、決して辛くはないが圧倒的に重みのある孤独の中で肉体というものの裁きに対する弱さを感じは…

夏は夕暮れ

『夏物語』を読んだ。ジュンク堂へ行ってサイン本が残っていて、気がつくとレジの前に立っていた。生活の目処は立たない。そういう奴が命のことを考えている。くそ。 母のことを思い出す。搾取された女性、という形で自分のアイデンティティを語り直すほど落…

地獄に暦はない。

書くことに意味はあるのか、なんのために書くのか、 みたいなことを考えた時期もあったけれど、最近はやめた。それこそ意味がない。書くことに意味を求めることは、書く前から書くという行為を縛ることであり、行為を縛るということはその行為自体を無に帰す…

言葉をわかることは永遠にない

『蛇にピアス』を読んだ。前に読んだのがたしか中三で、その時が最初だった。全く良さがわからなかったのは、この作品が纏う、設定や主題といった分厚い殻を、突き破ることができなかったから。パンクや身体改造といったわかりやすい“退廃”に対してすごくシ…

天国と、とてつもない暇に

手づくりのご飯に似つかわしい人間らしさが、自分にあるのか、わからなくなるときがある。優しくありたいだとか、思慮深くありたいだとか、そういった希望を持てば持つほど、学校や職場は、息苦しい。そこで作られる人どうしの関係性が、必ずしも無機質で非…

芸術と目

秘境よりなにより、数回訪れた友人の家の、未だ閉ざされた空間の方が、よほどこの世界の神秘に迫っている感じがする。寝室だとかキッチンの奥の倉庫だとか、そういった場所がまだよう知らぬ目の前の人の命を、司っているということ。それを思うだけで、ドキ…

恋愛グロッキー

生きている体にとって集中力なんてものは存在せず、ただ空洞の中を様々な色や景色や感情が通り抜けていくだけで、それでもある時、ああ自分には地を踏みしめる足が付いているんだなあと思い知らされる瞬間を、恋、と呼ぶのかもしれないと思った。 「寝ても覚…

暗闇の方を向くことについて

ちゃんとしたあらすじのある日記のようなものを書こうとしているんだけど、やっぱりうまくいかない。言葉に意味を持たせることが苦手、とまでは言わないけれど、意味だけが先に脳内で結晶化してしまうと、不思議と言葉が出てこない。いや、出てくるには来る…

切り身 切り身 切り身 切り身 切り身 切り身 切り身 切り身

感情がどこかへ飛んでいってしまって、もう帰ってきそうもないな、というとき、大抵は、正しさ、みたいなものに、汚されているんじゃないかと思います。怒りや悲しみといったものは、純度100%でいられない。目の前の出来事にちゃんと反応して、その度に何か…

ハンカチは持っていかないし街はいずれ廃墟になる

誰から見ても美しい言葉って、書いていてほんとにつまらない。粘土を塗って、角を削って、固めて整形しているみたい。ドロドロのまんまでありたいよ。内容ではなく、時間でありたい。勢いだけがただ持続して、構造なんて何もなく、読む人がそこを突き抜ける…

大学生

海外旅行に行ったってそこには街があるだけ、日本となにも変わらないよ。僕はその場所を、景色を、時間を消費するだけだ。染み付いた孤独は運命すらも、ただのガラクタに変えていく。心に感傷を縫い付けては、どこへ歩いていくというの。本や映画から引きず…

ビジネス書の序章から抜粋したみたいな架空の小文

情報や物資が世に溢れるに連れ、抽象概念の抽象性は具体物を取り込んでいく。例えば「カレー」といえば特に戦後すぐなんかはハウス食品とかが出してる「ライスカレー」だったはずだが、その後数多のカレーフーズが出現し、ベン図の円はどんどん増えていった…

夏風邪さんとレモンサワー

熱である。体温計など常備していないので正確に何度なのかも分からず、ただただ野戦病院のようなこの散らかった部屋に臥せっている。いや野戦病院の方がマシか。 思い出すのは幼稚園、小学校、それから高2の時に患った腸閉塞の入院期。要は下のトンネルの開…

映画とか人類愛とかのユルイ雑感

色々なコンテンツを回遊する中で、最近はSFに行き着くことが多い。何かの雑誌で柴田元幸さんが「時代は人間に興味がなくなった」的なこと言っていたけれど、自分の中でもそういう部分があるのかもしれない。もう人生の正解とか、人同士どうあるべき、みたい…

僕は村上春樹になれない

今日18時ごろ渋谷を歩いていたら20代前半〜半ばくらいの男二人が突然「この辺でオススメの居酒屋ってあります?」と話しかけてきた。正直「調べれば?」と思ったけれど地方からの旅行者の可能性もあるなと考え、だったら気のいい村人Bを演じてやらないでもな…

嘘の温度

今読んでいる雑誌、STUDIO VOICE vol.412の中にあるノンフィクション作家の藤井誠二さんの言葉が示唆に富んでいるなと思ったので引用します。ちょっと長いですが。 インタビューって非日常的な行為だから、相手も慎重に言葉を選んで、自分の内面を見つめなが…

太宰治FUCK

生活が破綻しているということをファッションにしてしまった、それが太宰治の犯した大きな大きな罪であります。僕は全然部屋が片付かない酒がやめられない公共料金が払えず排水溝は詰まったままだ。それでも文章を書いている。なんだこれじゃまるで文豪気取…

可愛い女の子可愛いって言ってるだけなのはつまらないよね

可愛い女の子が嫌い。嘘。大好き。でも女の子が可愛いということだけで盛り上がっている状態はマジで嫌い。女の子に罪はないけどね。かといって男社会だなんだと言い切れるほど、女性も無関係ではないと思う。 僕はジェンダーとかにめちゃめちゃ関心があると…

紙の雑誌は異国の街

最近雑誌欲がものすごい。もともと書籍を前にすると節約中枢が麻痺してしまうので本の衝動買いなんてのは今に始まった事ではないのだけれど、雑誌はまずい。なぜなら女性誌とか、サブカルっぽいファッション誌とか、自分に直接関係のない情報まで綺麗に見え…

長岡花火と馬鹿ラムネ

長岡花火、めちゃめちゃ綺麗だな、感動した。というのは嘘で、相変わらずキンキンの冷蔵庫みたいな部屋の中で読んだり書いたりをしている。長岡花火はtwitterのタイムラインに流れてきた写真を見ただけ。みんな撮るのが上手いから、というのを差っ引いても、…

ハルキ・ブーム、再び。

ひっさしぶりに村上春樹を読んでる。『レキシントンの幽霊』。つくづくこの人はストイックなんだな、昔はその簡素な文体についてどんな感想を持っていたか忘れてしまったけれど、本当に難しいことをやっているんだなと今は思う。フラットに、過不足ない情報…

死ぬんじゃないよ

つくることの原動力に欠落があるというのは、残念ながら、おそらく正しい。それはつくる人が常に欠落者であることの不幸、というより、単純に、安易なストーリーが事実に即してしまっていることへのある種のがっかり感、みたいな話。僕にしたって言葉につい…

舌から入れる虹

久しぶりにうまいものを食べた。西荻窪のバーで、深夜12時以降に行くと食べられるパスタ。ここんところスーパーの惣菜かコンビニのおにぎりばかりだったから、世界が少し、色を取り戻した気分。ビールとお通しも合わせて、2000円近くなってしまったけれど。 …

聞くひとは優しいのか

言葉を共感というシステムの部品みたいに用いると、それは決まって「おきまりのフレーズ」的な外観を呈することになり、その支配下で我々は、盲目な信者のように、笑い、手を握り、頷くことになります。 「ラストシーンがもとにあって、そこを目指して作品を…