2019-01-01から1年間の記事一覧

プラマイの雨

どれほど健やかに恋をしても終わるときには確実になにかが減っていて、新しい恋をしてもその減りを補うことは絶対にできない。だから恋を重ねることは、どんどん減ることである。首筋に大きな磁石を巻きつけているみたいに、じわじわと硬質な靄が目の奥を暗…

昨今、文体至上主義

千葉雅也『デッドライン』読んだので取り急ぎ。読めない、この小説はたぶんあまり好きじゃないと思ったのだがその苛立ちの中に、なにか“何処へも行けない”という、深夜の海岸に転がった空き缶を見ているような感覚が混入していて、案外読めていたのかもしれ…

彼はやはり

天才だったのですね、というゆわれかたをしてみたいもんよ。いや伏線は張ってきたつもり。要所要所で残してきた爪痕がそろそろ実を結んでもいい頃、なわけはないか。爪痕合戦で勝っても爪痕は爪痕にしかならず、爪だけがボロボロのまんま路傍の石と成り果て…

羽化してさよなら

ひとと酒を飲み交わすのが不得意になっている。酒じたいは好きだし、嫌なひとと付き合いで飲むほど首尾よく社会人できてないけど、なんでしょうね、飲んでる間はさして気にもならないいろんなこと、たとえばここの料理まずくはないしうまいんだけどここまで…

軽薄だからこそ

現実を知っているというような口ぶりの人々の語る現実とは大体がカテゴリ的に決定されているわけで、それは性欲、暴力、金銭欲求承認欲求といったもう歴史上何遍も何遍も人類を破綻させ疲弊させてきた諸々のロジック、はたまた情動であるわけですが、果たし…

荒れ野

社会生活をおくるうえですべきことは山ほどあるというのに、小説を書くことにすべての重きを置くとはどういうことだろう。しゃべりたくない、人と会いたくない、風に吹かれて肌に排気ガスのカスがつくのがイヤ、口から漏れる音が自分の耳にまた入ることの恥…

今はたぶんまだミぐらい

わたしはわたしという人間であることになんの疑問も抱きはしないのだけれど、いやたまにサンゴ礁の奥深く未だ人に知られてない生命体の仲間の一員になったような、決して辛くはないが圧倒的に重みのある孤独の中で肉体というものの裁きに対する弱さを感じは…

夏は夕暮れ

『夏物語』を読んだ。ジュンク堂へ行ってサイン本が残っていて、気がつくとレジの前に立っていた。生活の目処は立たない。そういう奴が命のことを考えている。くそ。 母のことを思い出す。搾取された女性、という形で自分のアイデンティティを語り直すほど落…

地獄に暦はない。

書くことに意味はあるのか、なんのために書くのか、 みたいなことを考えた時期もあったけれど、最近はやめた。それこそ意味がない。書くことに意味を求めることは、書く前から書くという行為を縛ることであり、行為を縛るということはその行為自体を無に帰す…